漫画家・手塚治虫さんが1967年から1989年に亡くなる直前まで描き続けたライフワーク作品『火の鳥』が、2025年の年明けからNHKで再放送され、その最終話から1000年後の人と地球について考えてみました。
最終話は地球の衛星軌道を静かに回る、古ぼけたロケットシーンから始まります。そのロケット内にあるのは地球の復活を願う猿田博士の亡骸。

孤独と向き合う
地球では最後の人類となったマサトが懸命に生きています。一度は壊されたロボットのロビタを修理するも、常に同じセリフの繰り返しで話し相手にはなりません。彼の最愛の幻想人物、ムーピーのタマミさえ消えていなくなってしまいます。天涯孤独となったマサトはその苦しみから解放されることを望み、自分を銃で撃ちますが死ぬことはできないのです。それは以前、マサトが友人に撃たれ死にかけた時、火の鳥が自分の血を飲ませマサトに永遠の命を与えたからなのです。
孤独が人を狂わせると言いますが、まさにそんな場面から最終話は始まります。
希望
マサトは生き残った人類を探して飛行探査を続けていると、砂の下に埋まる地下都市からの生命反応をキャッチしたのです。その地下都市で石棺と手紙を見つけるマサト。手紙には『また5000年後に会いましょう』とあります。書いた人物はレナ・ウェルテル。既に300年間一人で生きてきたマサトにとって、残り4660年274日11時間36分06秒も待つなんてできない。なんとか石棺をこじ開けて、レナ・ウェルテルに会いたい。しかし、放射能に汚染された地球では石棺が開いた瞬間に、彼女が生きていたとしてもドライフラワーのようになってしまう。ここは待つしかないと、マサトは4660年274日を待つことにしたのです。
もしも自分がマサトだったら。私は一人何をして4660年も過ごすのでしょう。一人で46年間過ごすことすら想像できない。では4年ならば。うーん。誰にも会わず、誰とも話さず4年間。もう自分ではなくなっているような気もしますね。
今、できることをする
レナ・ウェルテルが目を覚ました時、彼女が生きていけるだけの地球環境を用意しておこうとマサトは尽力するのです。
花の種を見つけ、育て、一見すると植物の育成には成功したように見えたのですが、しばらくすると花は枯れてしまいます。
その時、マサトは猿田博士の言葉を思い出します。
「草や鳥、蜂、爬虫類、バクテリアがあって、初めて生態系というものが成り立つ」
命の素を作り出すことに苦心し、成功と失敗を繰り返すこと4660年。
永遠の命を与えられたマサトですが、見た目は仙人の姿に変わってしまいます。
そして遂に、永遠のような年月が経過し、待望のレナ・ウェルテルとの対面。石棺に表示されるデジタル時計の待ち時間がゼロとなり、開いた石棺の中には、骨となった女性が横たわっていたのでした。
それまで過ごしてきた5000年を振り返り、マサトの口から出た言葉。
「この先の5000年は何を夢見て過ごせばいいんだ!」
4660年間と274日を、彼女に会うという夢を原動力として過ごしてきたマサト。遠距離恋愛の比ではありません。漫画の世界の話だからここまで孤独の時間を引き延ばせられると分かっていても、夢を見る力がなければ、このお話は終わってしまいますね。
絶対孤独
そこから時間の経過スケールは速度を増し、物語は1万年後、100万年後、1千万年後、1億年後、6億年後と過ぎます。
その中、マサトは絶対孤独という中で生存し続けます。
ちなみに6億年という時間の長さを知るために、現在から6億年前の時代はどんな様子だったかGoogle先生に伺ってみると
6億年前の地球には、ゴンドワナ超大陸が存在し、大きな大陸が分裂して新しい海洋が形成されました。また、磁場が大幅に減衰し、酸素が増えたことで複雑な生命が出現する舞台が整ったと考えられています。
– Google AI
生命が誕生する時代から現代までの時間が約6億年となります。
絶対孤独というか、孤独ってなんのこと?きっと水や石、土が友達ですね。
原因と結果
その後、地球には雨のように隕石が降り注ぎ、土地は隆起し、噴火や落雷、嵐が続きます。
その中、マサトは猿田博士の日記を発見します。
(6億年も保存されていたわけですが、和紙だったとしてもそこまで保存できるかどうか・・・ここは話の腰を折らずに進めましょう)
日記には心理学者ユングの偶然について書かれてありました。
原因がなければ結果はない。
どんな偶然も後から見れば、起こるべきして起こった必然である。
全てはなるようにしかならいのである。
必然としての偶然に私は出逢えたのであろうか。– 猿田博士&ユング博士
そしてここで、火の鳥が現れて語るのです。
「原因があって、結果がある。それが全て。」
火の鳥にそう言われると、その通りだ、としか言えませんね。
今ある結果には原因があったのだと。
私にも過去を振り返ると偶然と思える出来事が幾つかあり、それら偶然のカケラを繋ぎ合わせ私紋スクエアができたのです。それを起こるべきして起こった必然と捉えると、なんだか神秘的に聞こえますね。
人類は再び生まれる
世界は生まれ変わろうと、雷鳴や轟で荒れます。
悠久の時の果てに何らかの結果が出る。
そう信じるマサトは永遠の命が与えられているからこそ、その結果を見届けることができると理解したのです。
そして30億年後。
バクテリア、魚類、両生類、爬虫類、昆虫、鳥類、哺乳類と続き、遂に二足歩行の人類が誕生。火をおこし、槍や石刃を作り、狩を行う。
その様子を目を大きく見開いて眺めるマサトの隣には、ムーピーのタマミが寄り添っています。
その外側、地球の衛星軌道には猿田博士。
それら全てを見届けたかのように飛んでゆく火の鳥。
終わらないもの、それが命。
だから命は始めから永遠なのである。– 火の鳥
私紋が発見される予定の3022年

2022年から始めた私紋スクエア。家紋とハンコの文化を融合した個人の紋を作るワークショップでは参加者の皆さんに、「この私紋は1000年後の3022年に発見される予定です」と冗談まじりに話しながら、未来の人がそれぞれの私紋を見た時、何を思い、何を感じるかを想像しながら作っていただいています。
100年後ではなく、1000年後の未来になると皆同様に考えるのは、果たして地球は今と変わらない地球なのだろうか、と考えるのです。今、私たちが想像するSF的未来は近未来であって、1000年後ではありません。
それを火の鳥は36億年のスケールで物語るのだから、手塚治虫さんが漫画の神様と呼ばれる理由がよく分かります。
私紋を石に彫れば、小さな石ころとして火の鳥と一緒に36億年の旅ができるかもしれませんね。
最後にクイズです
火の鳥の未来編で、核戦争によって人類が地球からいなくなる、つまりマサト一人が地球に取り残されるのは西暦何年でしょう?
答えは
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
西暦3404年
なんと私紋が発掘される予定の3022年から382年後!
フィクションだと分かっていても、そんな話はあまりにも切なすぎるよ。
ワークショップでは希望ある1000年後とその先を考えて、デザインしていきましょう!
私紋スクエアでお待ちしております!