吉田博展へ行ってきました。明治、大正、昭和を生きた画家。
こよなく自然を愛し登山家とも言われるほど数々の山を登り、米国、欧州、インド、東南アジアを巡った時のスケッチを元に、浮世絵とは異なるスタイルの木版画を残してきた吉田画伯。「絵の鬼」「早描きの天才」「反骨の男」と数々の異名をもつ人の写生帖は170冊におよびます。
まるで風景を写真に収めるかのように、目の前に広がる光景を素早く手元に写し取り、それを元に版画制作を進めたのです。
今では自分の足を使って現地へ赴かなくても、絶景写真はネットに上がっている高画質写真で、鳥のさえずりや滝の轟も動画で見聞きできるので、吉田画伯の一瞬を写しとる技術は神技とも言えます。

終戦後、マッカーサー元帥は厚木に着到すると「日本の吉田博はどこだ?」と周囲に尋ねたとか。それほど米国では戦前から高く評価されていたようです。それは作品を見れば分かります。擦り数が半端ない。刻々と表情が変わる山岳や海、雨上がりで湿り気を含んだ夜の京都、乾燥した砂漠に横たわる巨大な石像、水煙舞い上がる滝、多いものだと96回も擦り重ねその繊細なニュアンスを作り出したそうです。

そして戦後、吉田画伯の最後となった作品は彼が慈しんだ自然風景ではなく、土間で食事の支度をする人の姿だったのです。

ああ、そこ、私にも分かる気がするなぁ。

吉田博展