未だに実感は沸かないけれど、TenTen代表取締役のエドが嘘のようにパタリと逝ってしまいました。しかも彼が心待ちにしていた会社設立以来のソロでの展示会、初出展の10日前にです。いつも冗談を言って笑わせてくれた人なだけに、これも冗談なんだよね?って感じです。

今から6年前の2014年、TenTenと言う自動販売機とスマホをBluetoothで繋ぐ技術開発スタートアップで週3日、働き始めました。その時はデザイナーとしてではなく、翻訳兼コンテンツ作成者としてでした。
4人のアメリカ人共同設立者と7人のスタッフ。私とサーバーエンジニア以外は皆、外国人でした。麻布のワンルームに自動販売機1台を持ち込んで、自販機の構造を調べ、頭が疲れると休憩がてら誰が持ってきたのかファミリーコンピューターで対戦ゲームを始める、いかにもアメリカ人らしい働き方でした。
会社の目の前には米軍基地があり、ヘリが離着立する際は、超騒音&超振動。業務妨害もいいところです。また会社の左隣には高級スポーツカーショップがあり、これまたエンジンをかけると、地鳴りのような振動が響き渡りました。さらに付け加えると、右隣は会員制のSMクラブ。黒塗りリムジンが昼間から横付け・・・・

このヘンテコな会社で働いて半年後、試験運用を開始。もちろん、最初から上手くいくことはなく、改良&テスト、そしてまた改良&テスト。それから1年後、遂に資金の底が見え始め、プログラマーではない私がまず初めにお役御免となりました。スタートアップとはそう言うものです。ですが嬉しいことに、その1年後、会社はやっと試験をクリアし第一の死の谷を脱しました。

軌道に乗ったと思えた約3年後の2018年の夏、第二の死の谷がやってきました。そこで代表交代。その交代した代表から再び呼び戻され、フリーランス契約で4年ぶりにTenTenで働き始めたのが2019年4月でした。

その3ヶ月後の7月には日経新聞に小さくですが掲載してもらい、死の谷からの脱出を喜びました。

そして今年3月、TenTenのスマートビーコン導入件数が伸びこれから加速するぞって時に、コロナです。先のことを考えて、緊急事態宣言が出た時には一時休業にもなりました。

代表は会社が苦しい時「皆はお金の心配をしなくてもいい。お金のことは僕が何とかする。皆はそれぞれ自分のやるべきことをやってくれ」と言って皆を安心させようと努めた人です。あの時点での社員数は約35名。半数以上は外国人でした。アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ドイツ、ブラジル、フィリピン、ポルトガル、フィンランド。お金の工面はそんなに簡単ではなかったはずですが、なんとか融資で繋ぎ事業を再開させ、大半の社員は残りました。

普段は超適当で仕事しているのかしていないのか分からないくらい人だったけれど、弁護士なだけあってよく学び、よく遊び、よく笑い、よく食べ、よく飲み、いざという時には皆の支えになる人でした。

代表とはTenTenだけでなく、他の事業のお手伝いもさせてもらいました。彼の周りで働く人は明るく、楽しく、前向きに仕事に取り組む人ばかりでした。見栄を張ったり、人の足を引っ張ったりなんていう、至極つならないことに時間とエネルギーを注ぐ人はいないのです。
5月の緊急事態宣言中、別事業の立ち上げで知り合ったアメリカ在住のショコラティエ。チャットだけのやりとりでしたが、濃厚な時間を過ごすことができました。謙虚で愛情深くSweetってこういうことを言うのね、とチョコレートへ対する意識が変わったほど。改めてこの代表の人望って普通じゃないなと気付きました。まるでマグネットのような人でした。

そして先月の10月中旬。ドリンクジャパンへの出展が決まり、11月25日を代表が誰よりも心待ちにしていました。ポロシャツ、パネル、パンフレット、プレゼンスライド、そして初のTenTenオリジナルデザイン自販機にTenTenドリンク。全てが揃い、代表もポロシャツを着てブースに立つ予定だった10日前の日曜の朝。あの電話を受けた時、私は友人と近鉄奈良駅へ向かって歩いていました。アメリカにいる彼のお母さんが入院していて危ないとは聞いていたので、代表が死んだと言う話は彼の母親のことだろうと、電話の内容を信じませんでした。しかしその晩、アメリカにいるショコラティエにメッセージを入れてみると、翌朝の返信で代表の死が本当だったと判明しました。

心臓発作でした。

それから4日後、彼のお母さんも導かれるように息を引き取りました。

ドリンクジャパン開催までの残り10日間、パネルの入稿、プレゼンのデザインに加え、社葬と代表を偲ぶ会で流すフォトスライド制作がタスクに加わり、無心で作ることに専念しました。駒をクルクル回すように、とにかく回しました。

そして11月24日、ブース設営に行くと、なんと!私たちのプレゼンテーションを務めてくださる女性は、コロナ前までは東京ディズニーランドのステージで歌を歌っていた話すではないですか!エドに話せばきっと大喜びです!
冥界へ繋いでくれるのはやはりSlackでしょうか?
@ed I got good news for you. First of all, you MUST come down and listen to her narration! She told me that before this pandemic, she’d been singing on stage in TDL!! I know how much you are excited now!! We should forget about the Jihanki presentation, let’s dance to the music “Let it go”!!

展示会では多くのお客様にデモ体験をしてもらい、「これは面白い!」「オペレータ向けの自販機AI、必要だよね」「これって、既存の自販機に設置できるの?」「何か一緒にできないかな?」とたくさんの声を頂戴しました。
そしてそのうちの一人から、「ここだけ、何か他のブースとは違うよね?」

その方には見えたのかもしれません。冥界からドラゴンに乗ってブースの周りを飛んでいる代表を。
代表はダンジェンズ&ドランゴンが呆れるほど大好きな人でした。社長室もこのおもちゃで溢れています。今では誰も社長室とは呼びません。おもちゃ部屋と呼んでいます。
ちょうど1年前の今頃、社長室へ行くと「Eriにも僕のシークレットプロジェクトに参加してほしい。これは20年前、僕がまだ松下で働いていた頃に作図したドリームテーブルの設計図だ。この長年の夢を2020年に叶えるんだ!」

「これって松下にいた頃、仕事をしているフリしてドリームテーブルの作図をしていたんですよね?」

ハリーポッターに出てきそうな仕掛けだらけのドリームテーブル。テーブルの夢は間に合わなかったけれど、ダンジェンズ&ドランゴンのイラスト加工修正を施した壁掛けキャンバスはきっと気に入ってもらえたんじゃないかなー。
あれねー、photoshop作業に3-4日はかかったんですよ!

エドと一緒に働けて本当に本当に本当に楽しかった。幸せだった。
彼が繋いでくれた人が私にとっては大切な財産です。

本当に楽しい時をありがとう!