霧がかった橋

『ダ・ヴィンチ・コード』 『天使と悪魔』 『インフェルノ』でお馴染みのラングドン教授シリーズ最新作、オリジン。冒頭部分で舞台となるのがスペイン・ ビルバオ にあるビルバオ・グッゲンハイム美術館。今作品では古典アートが好きな宗教象徴学者ラングドン教授が現代アートに挑戦。登場する作家はドリップペインティングで有名なジャクソン・ポロック、キャンベル・スープ缶で有名なアンディ・ウォーホル、カラフルな長方形で有名なマーク・ロスコなどなど。

物語はラングドン教授の教え子で、テクノ界で時代の寵児となったフューチャリストが世界三代宗教のトップと極秘に会い、彼が発見したある事実をスマートフォンを使って見せるところから始まる。
それから数日後、ラングドン教授は教え子からイベントへの招待を受け、会場となるグッゲンハイム美術館に到着。
美術館敷地内の池に架かかる橋をラングドン教授が歩いて渡っていると、突然濃い霧が発生。
そう、ここでラングドン教授シリーズ初(私の記憶では)となる日本人アーティストが登場!

The Fog Sculpture, Langdon thought.
He had read about this work by Japanese artist Fujiko Nakaya.
The “sculpture” was revolutionary in that it was constructed out of the medium of visible air, a wall of fog that materialized and dissipated over time; and because the breezes and atmospheric conditions were never identical one day to the next, the sculpture was different every time it appeared.

教授が何と言っているかというと、
霧の彫刻、ラングドンは日本人アーティストFujiko Nakayaによるこの作品について読んだことがあった。
彫刻は可視化された空気を媒体として創作された革命的な作品だ。何度も形作られては消える霧の壁。風や大気は刻々と変化するものであり、そのため彫刻も絶えず形を変えて出現する。

この時、初めて中谷芙二子さんというアーティストを知りました。Youtubeで作品を見て、一度見てみたいなーと思っていた数カ月後、日経新聞のアート紹介欄に中谷さんの日本初となる大規模個展が水戸芸術館で開催されていることを知ったのです!

表紙デザインが美しい!オリジン

霧の抵抗

これは開催期間中に絶対行かねば!と思い、天気の良い日を選んで行って観てきました!屋外での『霧の抵抗』は想像以上に幻想的、感動です!!

霧の抵抗前

この岩は水戸芸術館を建設した磯崎新さんによるもので、激しく水に洗われる巨石は「機動隊の放水を受ける東大安田講堂」の隠喩だそうです。

霧発生
もくもく、もわもわ、抵抗中
霧の中から飛び出してきた子どもたち
写真を撮り合う二人
霧に包まれる二人
霧の中で輝く塔
抵抗の終わり

ユートピアQ&A 1981

中谷さんは若い頃から自然環境を軸に大気を鋳型とし、刻々と変化する霧を化学薬品を使わず、子どもが安心して遊べるようにと飲水を使って幾つもの作品を発表してきました。

そして今回の展示資料の中で一番興味深かったのは、中谷さんもプロジェクトに関わったユートピアQ&A 1981です。

1971年、日本では白黒テレビが各家庭に広まりカラーテレビへの買い替えが進んでいました。世界に目を向けると、ベトナムでは戦争が泥沼化。その中、テレックスという技術(FAXの前身)が開発され、10年後の地球の暮らしを考える国際プロジェクトGlobal Communication Gameが1ヶ月間に渡り実施されました。東京、ニューヨーク、ボンベイ、ストックホルムを回線でつなぎ、それぞれの国に住む市民からの質問が翻訳され、各国へ送信。そして、その国の有識者と呼ばれる人が質問に答え送り返したのです。

その400以上にものぼった質問と回答の中から40の質問と回答に絞り、政治、経済、ジェンダー、社会、技術、芸術分野に分けて展示してありました。日本の有識者の中には手塚治虫さんの名前も!そして、どの分野においても1971年の人々が抱いていた質問とその回答は、2019年の現在に至っても飛び交い議論されている内容です。

39の質問と回答を読み終え、最後の質問に辿りつきました。
「ユートピアQ&Aを終えて、ご感想は?」

ニューヨークの有識者マーシャ・ニューフィールドさんの回答です。
「もしテレックスが世界中の家庭に一台ずつ入れられたなら、人々は戦場へ向かおうとはしなくなるだろう」

Fax、メール、チャット、SNS、自動翻訳システムもついたコミュニケーションツールが開発された現在、ニューフィールドさんが思い描いた未来に少しでも近づいた、のかな?